ピエールSの戯言

自分の趣味の音楽や車、考え方、そんなのを書くだけ

性的興奮時における物事の判断

少しタイトルを変えてみたが、内容は以前と同じくダン・アリエリー著の『予想通りに不合理』の感想というか、まとめという感じである。

さて、今回の6章は【性的興奮の影響-なぜ情熱はわたしたちが思っている以上に熱いのか】とタイトルがつけられている。

つまり、興奮状態の時と平常時では判断にどんな影響が出るのか、というのを実験と共に見ていく内容である。

もちろん、性的興奮だけでなく怒りからくる興奮や楽しさからくる興奮からでも影響を及ぼすが、今回は本書のタイトルに倣ってブログタイトルをつけた。

 

 

 

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さて結論から話すと、性的興奮時の判断は平常時と比べ、アブノーマルかつイリーガルに陥りやすい、つまり、通常時より短絡的に判断するということが判明した。

アブノーマル、イリーガルに陥りやすいというと語弊を招いてしまうかもしれないが、今からその実験内容と共に掘り下げてみていきたい。

 

今回はMITではなく、カリフォルニア大学バークレー校の生徒が協力した実験結果となる。

著者は、「合理的で知的な人間は、情熱的な状態になった時に自分の態度がどう変化するか予測できるのか」という実験を試みた。

 

興奮というと先述の通り、怒りでの興奮やいらいらでの興奮などがあるが、著者は快い感情での興奮を持ってもらおうと性的に興奮している状態での意思決定について研究しようとした。それにより、10代での妊娠やエイズHIVといった社会問題に取り組む助けになるのではないかと考えたからだ。

 

というわけで、年齢的にも盛んな頃になる男子学生で異性を恋愛対象とする人物を実験対象として募ったのだ。

なぜ男子なのか、それは性的コンテンツに対して女性よりも男性のほうが単純だからだ。募集はうまくいき、実験協力者は大勢集まった。

 

本章では、ロイという学生が実験協力者としてピックアップされている。

彼は実験協力者のほとんどを代表する典型的な人物だ。

教養があり、親切で、知的で、音楽やバレーといった運動を趣味とし、彼女がいる。

ロイは実験同意書にサインをし、著者と握手をした。契約成立である。

 

実験内容は2回ある。

だが、最初の実験時には2回あるとは伝えられていない。

なぜ2回行うのか。それは、

平常時に考える興奮時の行動と興奮時に考える実際の行動

の2つを比べるためである。

 

さて、著者はロイにパソコンを貸し与える。

コードを入力すると質問が出され、それに対してYES/NOで答えるものだ。

1回目の実験(ロイには2回目の内容を知らせていない状態)では、自身が性的興奮状態にいたらどう行動し、どんな行為を気に入るかを予想して回答するよう指示した。

 

肝心の質問内容は、3つの質問群に分けられる。

最初の質問群では性的嗜好を尋ねるものだった。例えば、女性の靴に興奮するかとか、50代の女性に性的に惹かれる自分を想像できるか、ひもで縛られてたり、縛ったりするのはどうか、など。

次の質問群では、不道徳な行為をする可能性について尋ねるものだ。例えば、行為のために酒を多めに飲ませたりするか、など。

最後の質問群では、無防備なセックスにつながる行為をする可能性について尋ねたものだ。つまり、ゴムの有無で性的快感は変わるか、といった内容である。

 

数日後、ロイはこの理性的な状態で判断した回答を持って帰ってきた。

そこで著者は2回目の実験について話し出す。

つまりは、興奮していて至っていない状態で同じ質問に答える、というものだ。

 

さてこの結果は…?

どの場合も、そしてロイ以外の実験協力者も、性的に興奮しているときと、理性的な状態のときとで、大きく異なる回答をした。

性的に興奮している状態での性的嗜好に関する質問を見ると、性的に興奮しているときでは、さまざまな変わった性行為をしたくなるなるだろう、という予想が冷静な時のほぼ2倍の72%増になっていた。

例えば、動物との接触を楽しむという考えは、冷静な時よりも2倍以上魅力的になった。

また、不道徳な行為に走るだろうという予想についても136%増になった。

さらに、ゴムの使用について散々重要性を説かれているにもかかわらず、いざその状態になると冷静時に比べ25%も多くゴムなしの状態で、という回答になった。

 

この結果は、ロイ含む実験協力者が冷静で理性的な状態の時は女性を尊重することを示している。変わった性行為に魅力をとくに感じず、道徳優先で、必ずゴムを使うはずだと思っていた。自分自身のこと、自分の嗜好のこと、どの程度の行為をしうるかということも把握できている、と考えていた。しかしこの結果から見てわかる通り、実験協力者たちは自身の反応を完全に甘く見積もっていたのである。

劇場の真っただ中にいると、なんらかの内なるスイッチが働き、簡単に自身の考えが一転してしまう

つまり、多くの人は情熱が自分の行動に脅かす影響を甘く見ているのだ。

しかも、その変化も甚だしいものだ。

 

今回の実験によると、ロイは極めて優秀で(=その手の知識もある)思慮分別があり(=他者を思いやる、親切である、礼儀正しい)、理性的である。しかし一度興奮状態になると、ロイが別人のようになってしまう。

ロイは興奮状態の行動をわかっているつもりだったが、その判断力は限られている。性的誘因が高まるにつれ大胆な行動をとることを理解しきれていないのだ。

さらに、こうした状況において自分を理解する能力の欠如は経験では解決できない、という問題も明らかになった。

前述のようにロイは成績優秀者であった。つまり、それまで性について学習した上で、その危険性についても学んだはずなのに、こうした状況では判断力が異常に下がってしまう。

 

では、これに対処する方法はあるのか。

多くの人は「Noと言おう」というだけで防げると考えている。

つまり、感情が沸点に達した時でも適切な判断ができる、必要な時だけゴムを持っていればOK、と考えている。

しかし実験から見たように、その魅惑がある時点で判断力はだいぶ落ちる

激情の中に入るとNoはすぐにYESに代わってしまう。

ではどう対処すればいいのか?

著者は2つの答えを用意している。

1つは、ゴムを常に携帯すること。これは前述からわかるように、必要時だけでは対応できないからだ。

2つは、その情熱にひきよせられるほど近づかないうちに、そこから立ち去るよう指導すること。誘惑に引っかかるよりも、誘惑が生じる前のほうが若者にとって戦いやすいからだ。

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という実験と結果だ。

つまり、人間は自分が思った以上に自分をコントロールできていないし、理解できていないのだ。

これに対処するのは非常に難しい。誘惑を避けるのも不可能に近い。

ではどうすべきか。

まず、自分について冷静時と熱くなった状態の両面について掘り下げる必要がある。両面を理解し、両面の隔たりが生活にどう役立ち、どう堕落させるか、見極めなければならない。

激情に襲われた時に誤った判断をしがちだ、と自分で自覚するだけでも日々の助けになるのではないか。

 

 

 

という著者の意見。

確かに、今回は性的な面で見ていたが、それ以外の面でも当てはまるのではないだろうか。

上司から嫌味を言われたなど、ストレス社会を生きる我々には様々な興奮状態に直面する場合が考えれられる。

この時に、興奮時の判断について冷静時には考えられないことをする、ということを日々認識しておくことで防げるかもしれない。

そうすることで、上司を〇す、なんていう判断も冷静時にはしないと思っていたが、激情したとき(俗にいう、思わずカッとなったとき)には…なんという悲劇も回避できるかもしれない。

そのうえで、一呼吸置くことで別の対策ができるかもしれない。

 

自分は自分が思っている以上に難しく、奇々怪々なのである。