ダン・アリエリー著『予想どおりに不合理』を読んだ
最近、面白い本を読んだ。
ダン・アリエリー著「予想どおりに不合理」という本だ。
本書は行動経済学について、具体的な例と実験を用いて書いてあるものだ。
通常の経済学では人間は合理的な選択を常にしている、ということが前提になっている。
つまり、誰でもオトクな方を選ぶ、といったものだ。
日常生活に当てはめるとよくわかる。最近だと特にスーパーで顕著にわかる。
例えば、プライベートブランド(PB)。
スーパーなんかに行くと、同じ食品会社でもあるにも関わらず、親元がスーパーなどでパッケージが食品会社のものではなくシンプルなものになっていたりするのを目にする。
で、裏面の材料欄を見たりすると、「あ。この会社、あのポテチ会社だ」なんていうのを見たことがあるはず。その割に自社オリジナルモノより安く手に入るのだ。
そこで多くの人はPBに行く。
普通に考えればそうなる。安くて、会社も同じなのだから。
しかし、実際はそう完全に行くものではない。
安いからには理由がある、と深く探ってオリジナル品を買う人もいるかもしれないからだ。もちろん安いのには宣伝費用や物流費用などもあるが、今それは無視する。
つまり、安いからといって必ずしもそちらに行かない、ということを行動経済学では証明している。もちろんこれは一例であって、本書では様々な側面から、人間心理と経済を結び付けている。
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折角なので、復習がてら1章から見ていきたい。
本書の第1章では、「相対性の真相」というタイトルで始められている。
相対性、つまり“比較”をすることで何が起きるのか、というのを見ている。
ここで取り上げられていたのは、雑誌『エコノミスト』を例にしていた。
『エコノミスト』のウェブサイトには購読プランの広告があった。
そこには、
1.エコノミストウェブサイト購読 →59ドル
2.印刷版 →125ドル
3.ウェブ+印刷版のセット →125ドル
この本を定期的に読むためには、3つの選択肢の中から選ばなければならない。
選択肢を見てみよう。
なんと、”2”と”3”が同じ額で購入できるのだ。
これなら”3”が圧倒的にオトクではないか。
よし、”3”にしよう。
これが相対性の結果である。
この選択肢で消費者は3つの選択ができるが、消費者はウェブ版と印刷版のどちらが得なのかわからない。
しかし、ここに125ドルの2択でどちらが得かを判断できる。
つまり、”2”よりも”3”の方が、印刷版もついているのに同じ金額、オトクじゃん!さらに、ウェブまでついている!超オトクじゃん!という戦法である。
この結果は顕著に現れ、大多数の人が”3”を選択したという。(MIT院生の84%が”3”を選択)
多くの人は自分の求めるものがわからず、状況と絡めて見て初めてそれが何なのか、というのがわかる。
例えば、欲しい車を求めているときに、映画で華麗にカーチェイスしている主人公の車を見てアレが欲しいだとか、今よりいいスピーカーが欲しいだとか、そんな感じで。
『エコノミスト』の場合は、ウェブか印刷か、どちらを選べばいいのか、少し考えなければならない。ウェブ版だとネットワークが死んだら見えないし、印刷物は荷物になるし…といったように。
そこで『エコノミスト』のマーケティング担当は、消費者が悩まなくていい方法を思いついたのだ。
印刷だけの購読と印刷+ウェブセット購読は後者の方が勝って見える。
では、これでなく2択にするとどうなるか。
つまり、上記の選択しで言うところの”1”と”3”だけにする。
1.ウェブ版 →59ドル
2.印刷版+ウェブ版 →125ドル
結果は前述のものと真逆なものになった。
先ほどと金額を変えていないのにもかかわらず、「印刷+ウェブ」を選択したMITの学生は84%から32%まで減少した。
つまり、ウェブ版のみにシフトしたのだ。(この結果、3つの場合の時は16%だったが2つの場合になると68%にまで急上昇した)
目の錯覚、というのがある。
同じ円の大きさなのに、それを囲う円が大きいか小さいか、その周りの円によって同じ大きさの円が違う大きさに見えてしまう。
これと同じような原理が、こうした物理的なものだけでなく、経験や感情、態度といった無形のものにまで影響を与えるのだ。
こうしたことからいかに脳が単純で、経済的でないことがわかる。
選択肢に、ちょっとした選択肢を加えるだけで、料金が高いのにも関わらず、また自分がそこまで必要としていない選択肢なはずなのに、選択肢の中で比較ができるようになると、おのずとオトクな方を選んでしまうのである。