プラシーボ(プラセボ)効果とは?
時に人間は信じるという行為で免疫力を高めることがある。
例えば、医師に勧められた薬を飲み続けた結果、病気が治ってしまったり、痛みがなくなってしまったりなど、実際にその症状に効く薬ではないのに、なぜか作用をもたらし結果的に免疫力を高めてしまうというのである。
意外と馬鹿にできなくて、これも実験した結果が然りと残っている。
というわけで今回の11章では、このプラシーボ効果を取り扱っている。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
では、11章【価格の力】を見ていきたい。
偽(プラセボ)の手術
もはや定番といってもいいが、この章も今までの章と同じく実験から始まる。
さて、時は1955年まで遡る。
ドクターコブは心臓医で、狭心症の手術を行っていた。
この手術では、患者に麻酔をかけ、胸骨を切開し、内胸動脈を縛るという手術を行う。この結果、心膜横隔動脈への圧力が上昇し、心筋への血流が改善し症状が良くなるというのだ。
(正直、医学知識は全く持っていないので、何が何だかわからない。笑)
長年これが効果のある手術だと思われていたが、コブとその同僚はそれに懐疑的であった。これは本当に効果があるの治療法なのかと。本当に効いているのかと。
これをコブは大胆な方法で証明しようとした。
患者の半分にはこの手術を施し、もう半分には手術をしたふりをする、というものだ。
そして、どのグループがよくなったと自覚し、だれの健康状態が実際に改善したのかを調べることにした。
さて、コブは一部の患者には従来の手術を行い、もう一方では偽の手術を行った。
本物の手術は言うまでもなく従来の方法で、偽手術ではメスを入れて二か所を切開するだけで、他にはなにも行わなかった。
普通に考えれば、メスを入れただけで治るはずがない。
しかし、結果はそれに反するものだった。
従来の手術を受けた患者も、偽手術を受けた患者も、胸の痛みがすぐに和らいだ、というのだ。どちらのグループも3か月間、痛みのない状態が続き、その後、胸の痛みが戻ってきたと訴えた。また、心電図でも同様に、従来の手術と偽手術を受けた人に違いはなかった。
つまり、従来の手術は短期的に症状を治める効果があったが、偽手術でも同じ結果になり、どちらも長期的に痛みを緩和する効果はなかった。
この実験結果は、この手術だけでなく、のちに別の似た実験でも証明されている。
プラシーボ効果の力
プラシーボ(プラセボ)は、ラテン語の「わたしが喜ばせよう」という意味から来ている。
14世紀には、葬式では死者のために泣き、涙を流す役に雇われた泣き屋を指す言葉として使われたそうだ。1785年には【新医学事典】に登場し、瑣末(重要ではない)な医療行為のひとつに加えられた。
文献に残っている最古のプラシーボ効果は1794年イタリアのものだ。
イタリアのジュルビという医者の発見が記述されている。
ジュビルによると、ある虫の分泌液を痛む歯に塗ったところ、1年間痛みが消えたそうだ。これを用いて、ジュルビは何人もの患者を治療し、患者の反応について記録を残した。この結果、患者の67%は、痛みが1年間消えたと報告した。
歯痛の治療と分泌液の関連性は現代においては全く関連がないが、当時のジュルビと患者はこれで治ると信じていた。
もちろんこれ以外にも、近年まではほとんどがプラシーボの薬であった。
ヒキガエルの目玉だったり、蝙蝠の羽、キツネの肺などなど、現代から見れば奇天烈なものばかりだ。
流石に現代にはないだろうと思われたが、実際には結構あったりする。
いずれにせよ、こういった実態とは異なる効果というのは実際に機能している。
ではこの効果の根源は何なのか。
実は、プラシーボ効果は暗示の力によって威力を発揮する。
つまり、信じるからだ。
主治医をみればよくなった”気がする”。薬を飲んだらよくなった”気がする”。高い評価の主治医から診断されたからよくなった”気がする”。処方箋などが最新の特効薬だ、と言われたからよくなりそうな”気がする”。
などなど、実は密かに自分自身が自分に暗示をかけているのだ。
2つの要因
このプラシーボ効果を発揮させるためには2つの要素が重要とされている。
1つは、信念。
つまり、薬や治療や世話をしてくれる人に対する信頼や確信だ。前述の通り、評判のいい医者だったり病院だったり、最新の特効薬だったり、それだけで安心してよくなった”気がする”のだ。そしてこれにより、体内の治癒力が活性化されるのだ。
2つ目は、条件付け。
身体は何度も経験すると期待を高めていき、様々な化学物質を放出して、心構えをさせようとする。ある種の免疫のようなものだ。
例えば痛み。
予測がエンドルフィンなどの脳内麻薬をはじめとするホルモンや神経伝達物質を放出させ、激しい痛みを遮断する上、高揚感をもたらす。
これらの2種類の要因がプラシーボ効果を助長させるのだ。
価格の効果
では、価格はプラシーボ効果として我々に影響を与えるのだろうか。
価格だけ見れば、200万のソファーの方が2万のソファーより心地が良く、高品質であると予測できる。
そのほかのモノにも当てはまるのではないだろうか。
つまり、高いものであれば品質や効果が安価なものと比べ高いと。
はたして、暗に示された品質の差は、実際の経験に影響を与えるのだろうか。
そしてそれは、医療品への反応などの客観的な経験にも当てはまるのだろうか。
例えば、安い痛み止めは高い痛み止めより効果があるように思えないだろうか。
著者はまたも実験した。
著者は新しい薬を開発したとして、痛み止めのべラドンという薬を用意した。
また、雰囲気づくりのため実験室ではキチンとしたスーツを着た若い女性がおり、べラドンのパンフレットがテーブルに広がっている。
実験協力者はこのパンフレットを読み、臨床試験の結果、べラドンを服用した92%以上が10分で痛みが軽減したと報告し、最高8時間まで継続したと報告されている。
そして、値段は1回分が2.5ドルということだ。
パンフレットを読み終えると、白衣を着たいかにもな医者を呼び、健康状態や家族の持病などについて尋ねてくる。
その後、聴診器を当て心臓の音を聞き、血圧を測った。そして、複雑そうな機械に協力者をつなぐ。これは電気ショック発生装置で、これを使い痛みに対する知覚と耐性を判断するそうだ。
スイッチを押すと、初めは静電気くらいだったが次第に強くなり、痛くなり初め鼓動も激しくなってきた。
医者は協力者の反応を記録し、それが済むと新たな電気ショックが始まる。今度はランダムに電気の強さが変化するものだ。
1回のショックが終わるごとにその痛みの程度(そんなに痛くない~激しく痛い)をPCを使って記録するよう求められる。
聞いた感じ、まるで拷問のような実験が終わると件の薬を飲まされる。
医者は、この薬が最大の効果を発揮するまでに15分かかることを説明した。
さて、15分が経過すると同じ実験が再開された。
結果はどうだったのであろう。
この結果、薬を飲んだ後の方が痛みを感じなかったことが判明したのだ。
ちなみにこのべラドンはただのビタミンCの錠剤であるため、痛み止めの効果などない。
価格とプラシーボ効果
さて、先ほどは2.5ドルだったが、次は10セントという破格だ。
この薬の費用が変わっただけで、協力者の反応は変わるのだろうか。
先と全く同じ実験を行った結果、痛みが軽減した人は半分になってしまった。
さらに、価格とプラシーボ効果は全員に当てはまらないことが分かった。
最近の痛みの経験が多い人に価格による効果がとりわけ強く表れたのだ。
つまり、痛みをより経験し、より鎮痛剤に頼った人では、価格とプラシーボ効果の関係がより強まったのだ。薬の値段が安いと他の人より、さらに少ない効果しか得られなかったのだ。
ということは、薬のことになると、支払った分に見合うモノが手に入ると言える。価格は経験を変化させる場合があると言えるのだ。
まとめ
なるほど、つまりプラシーボ効果は存在し、その仕組みは”信念” と”条件付け”から構成され、場合によっては金額によって経験を変化させることがある、ということがあるわけだ。
おわり